登山でのアクシデント
本日は、初心者を連れてバリエーション体験。一度登った山で周回コース全12km、メンバー4名。
天気予報はおおむね晴れ。午後から薄曇り降水確率20%、午後6時以降40%、翌日はALL90%。天気の下り坂が心配されるが、下山予定は余裕を見て午後2時だ。
登山も中盤を折り返し、下山中8kmを過ぎた付近で10m程度の崖に出くわす。以前は梯子があったが消失しており迂回を余儀なくされた。折り返せば1000mほどの急登・・・引き返すことは考えず巻きを選択。
しばらくしたら小雨がパラつく・・・。懸念していた天候悪化が早まったか。
迂回に次ぐ迂回で時間をだいぶ費やしたが、まだリカバリには至らず・・・。現在地ロストという不安が頭をもたげる。
日没には余裕をもって山に入ったつもりが午後4時前。深い森林とぶ厚い雲で足元はおぼつか無い暗さ。
『ライト点灯!』の合図に一人が大喜び。場が和む。
バッテリー切れが一人。リスクが拡大していることはすでに感じているが、なんとか今日中に下山したい。
濃霧が立ち込め足場も悪いが無灯火を間に挟み、特徴的な地形が想定される方へしばらく歩く。突然、ヘッドライトが無い一人が強烈な尻もちと足首を痛めた。しばらく休憩を兼ね様子を見たが30分たっても歩くのは難しいという。
時間は無駄に過ぎ、そのうちに本降りとなる。午後6時、あたりは真っ暗・・・。
携帯電波は届きません。メンバーにもう笑顔はない。メンバーを休ませ、一人で登山道を探しに行くか・・・。
主なアクシデント
これはフィクションです。
アクシデントに至るには何かの前兆や周りが示すシグナルを見逃している場合が多いようです。不運が重なると、蟻の一穴のごとく弱い箇所から状況が悪化し、状況が対処範囲を超えるとドミノ倒しのように総崩れです。
しかし、予備知識を身に着け最悪の選択をしなければ、それだけで、取り返しのつかない状況発展への可能性を抑えられます。
いくつか気を付けるべき事があるので見ていきましょう。
- 登山での道迷い
- 登山中のケガ
- 自然の脅威
登山での道迷い
道に迷うと誰でも焦る。焦りは自分で気付きにくく、また情報を正確に処理できない。特にリーダーはみっともない姿を見られたくなく余計焦る。
しかし、事前準備が足りなくても大丈夫だから。
道迷いは恥ずかしくありません。ベテランでもやっちゃいます。恥ずかしいのは対処できないこと。
リカバリ
とりあえず、分かる場所まで戻ってみる・・・で解決すればラッキー。
しかし、大概はさまよい歩いているので、分かる場所まで・・・というのは簡単ではない。その場合、近くの尾根から高い所を目指す。見晴らしの良い場所となると、地形, 高度, 地図記号など複数の情報を集めやすく現在地が分かる可能性が高くなる。
さらに一番の理由は、登山道は山頂に向かって収束し、麓に向かって放射状に分散。しつこく上昇を続ければいずれ登山道に出くわすという理屈。
絶対やっちゃならないこと
谷や沢に降りる
ただでさえ、谷や沢にはガレ場など踏み固められていないグラグラする浮石がゴロゴロ。そして、谷は尾根より勾配がキツく、沢登りベテランでも沢を下ることは嫌がります。
そんなところで足を踏み外したらタダじゃ済みませんよ。もう地獄へ通じる道まっしぐら。
やばいよ、やばいよー・・・。
ビバーク
フィクションの例だと、足元がおぼつかない暗さなら腹をくくりましょう。霧が出ればライトの乱反射で視界も限られる。手元が見えているうちに全員でビバーク準備。メンバー負傷がビバーク決断最後のタイミング。
暗くなるとさらにケガをしたり、余計に道に迷ってしまう危険がある。むやみに動き回らずその場にとどまったほうが良い。
一人が助けを呼びに行くなど、新たな二次災害を引き起こす可能性が高くなる。実際、無事に生還した人は、その場にとどまっていた人が多い。
この状況下で仕事を持ち出す方は、命と仕事を天秤に掛けるしかないですね。
山に入る前に、『道に迷って暗くなりそうならビバークですからね!』と念押ししとくと、道迷いは普通か?と少々迷ったくらいではメンバーが動じなくなる(笑)
仮眠をとるとき、体の下に引くのはバックパック。柔らかいマットのような素材が使われており、保温性・断熱性に優れている。腰の部分が厚めに作られているので、上下をさかさまにしクッション部分を枕にする。
雨具を着用し、エマージェンシートやツェルトで夜露や雨を防ぐ。
2017年9月29日放送『その原因Xにあり!』から引用
フレームパックや背面メッシュのザックでは厳しい。そういうこともできるザックもあるという予備知識程度で。
登山中のケガ
足の捻挫
足をひねると筋肉や靭帯が切れ内出血を起こし、腫れや痛みなどの症状が出てくる。患部を冷やすことで、腫れ・痛み・炎症の悪化を抑制できる。
温めてしまうと血行を促進し、腫れや痛みが悪化してしまう。
靴は脱がさない。脱がすと腫れで靴が履けなくなるとその後が困る。
出血は直接圧迫
心臓より傷口を高くしガーゼの上から圧迫15分程度。
バックパックは緊急時おんぶ紐としても活躍。身体全体で背負うことで安定し、両手が自由になり安全に運べる。
中身を空にしてショルダーハーネス(肩紐)を全部伸ばす。
上下を逆さまにして肩紐に両足を通す。
けが人をおんぶする。
2017年9月29日放送『その原因Xにあり!』から引用
自然の脅威
噴火
万が一に備え、避難に使えそうな岩陰をチェックしながら歩行。
避難小屋は事前にチェックしておきましょう。
噴火に遭遇したら
バンダナやタオルで鼻と口を覆う。視界をやられるとアウトなのでゴーグル携行を強く推薦。管理人のゴーグルは“SWANS SR-1”。
とにかく最悪を想定してください。使いそうにないものを持っているか否かが生死を分けるのです。
2024年現在、鹿児島の山は霧島など本当に不安定です。
“登山道具 – ザックの中身” にはゴーグルやバンダナが書いてますね。エマージェンシーキットに入れておきましょう。ただし、パッと取り出せないと意味がありませんよ。同じエマージェンシーギアでも、ヘッドライトはそこ数分取り出すのが遅くなっても困りはしません。しかし噴火は違います。たった1分が生死を分ける時だってあります。
御嶽山、NHK噴火の証言
生命を脅かす生物
エキノコックス
水場は、キタキツネ, イヌ, ネコ, タヌキなどの糞に混入したエキノコックスの卵胞を摂取してしまう可能性がある。肝臓に寄生されてしまうと深刻な肝機能障害を引き起こす。
きれいな流水に見えてもそのまま口にしてはならない。煮沸もしくはフィルター1μm(0.001mm)以下の携帯ろ過器を用いる。
マダニ
直径4mm。SFTSウィルスは致死率20%。
2週間ほど噛みついたまま。潰してしまうとSFTSウィルスごと血が逆流してしまう。また、自分で取り払っても頭部や牙が体内に残り、感染症のリスクを高めてしまう。噛みつかれたまま速やかに皮膚科へ。
山から下りたら、ザックや衣類についてないか互いにチェック。
緊急時に備えよ
不運にもアクシデントが重なり、自力でリカバリーできない、また、ケガがひどく動けない場合、救助要請です。
救助要請は、迅速に連絡網が機能しないと意味がありません。何日も経って見つけられても命の保証がないばかりか、なにより捜索を依頼した家族が一番の被害者です。
どこに行ったか分からない人を探すのはもの凄く困難
救助要請は限りなく早く機能する対策
救助に民間ヘリ要請となると1分1万円
登山届
『はい、登山届ちゃんとポストに投函しています。』
では下山届は誰に?
『・・・』。
登山届の意味をを大きく勘違いしていますね。
登山計画を紙でもLINEでも記録に残し、最低でも家族に告げて山に入る。そして、下山予定時刻までに下山連絡を入れる習慣。
所属山岳会がある場合、代表と事務長にも提出しておけばバックアップにもなりますね。下山届が煩わしいといってバックアップを省けば、それだけネットワークが貧弱になるということは言うまでもありません。
以下は “山と食欲と私” のコラボ登山計画書。一般的な項目はこんな感じですが、最低次だけでも。
山域と山の名前(できれば座標も)
入山口と入山時刻, 下山口と下山予定時刻
メンバーと登山届先の氏名と連絡先
座標は、60進法(緯度N, 経度E)と10進法(lat, lon)があります。
ジオグラフィカは目的地にセンターを合わすと下部に表示(60進法)、座標長押しでクリップボードにコピー(60進法と10進法)。
登山届アプリコンパス
登山届アプリで有名なコンパス。緊急通報のコンセプトは素晴らしいのだが、なにせ使いにくい。どうでもいい機能が盛りだくさん。当サークルは使いませんが、使ってから判断するのが良いかもしれません。
登山届の入力が複雑で項目が多すぎる
下山届催促の時間間隔と回数が変更できない、また文章を変更できない
緊急通知を受け取った側が、他は誰に通知されているか知るすべがない
コンパスグループに所属申請しても管理人にメール通知がない
UIがお世辞にも使いやすいとは言えない・・・などなど他にもたくさん
メーリングリスト
通話できない微かな電波なら、LINEグループやメーリングリストが有効。信頼できる者同士で緊急連絡網を作っておきましょう。
省エネコンタクトが可能です。
当サークルのメーリングリストアドレスは、 “GoGoバリエーション” のポリシーに記載。
メーリングリストは、差出人が登録メールアドレスでないと受け付けません。
緊急時の誤操作をなくすため、 “メール差出人がicloud.comのメールアドレスになってしまう。” などを参考に、デフォルトアカウントをメーリングリスト登録アドレスに変更しておきます。
あと迷惑メール設定の救済リストに、メーリングリストのアドレス登録を忘れずに。
山岳保険
警察は無料で動いてくれますが警察も暇ではありません。救助にヘリコプターが必要で警察ヘリが手配不能であったら、民間ヘリの相場はなんと約1分1万円(@_@)
命か・・・お金か・・・究極の選択。
一人で借金背負うには誰も文句は言いません。しかし本人と連絡不能だと、捜索願いを出すのは家族や所属山岳会ですが、その方たちに費用の問題を考えさせることがあってはなりません。
“使える山岳保険” でいくつか紹介しています。
ココヘリ
第三者側から、これ以上早く見つけてもらう方法は今のところない。
72間の壁は過去のもの。
救助ばかりではありません。不幸にも命を落とした場合、遺体が見つからなければ失踪宣告に7年も費やします。その間、職場は無断欠勤で解雇となり退職金はありません。さらに家族は生命保険もおりません。
会員証の充電
GPSログ記録
山に入る前にリーダーにルートを示してもらい、GPSログ記録を行いルートトレースが正常か・・・登山中確認。
大切なことは、リーダーを含め自分以外を信用しない・・・と言ったら人聞きが悪いが実際そうです。
人間はミスをしますがリーダーも例外ではない。経験を積んでいるリーダーは、他のメンバーと比べればミスの確率は低いですが、メンバー全員のサポートを得れればその確率を限りなくゼロに近づけられます。
ジオグラフィカの場合、登る山域の表示キャッシュ・一括キャッシュ
エマージェンシーキット
非常食 水 携帯浄水器 防寒対策 ツェルト マット
アルパインハーネス ビレイデバイス 環カラビナ2枚 スリング60&120
ゴーグル ホイッスル
スマホ予備バッテリー10,000mA以上 ヘッドライト予備バッテリー
冒頭フィクションの状況だと、雨具とエマージェンシーシートだけで一晩は辛すぎる。ビバーグギアで最強のツェルトは、雨、風、虫、寒さをしのぎ、また、ビバーク以外で当てにしていた山小屋が使えないときも活躍。ベテランがよく選ぶのは “ツェルトⅡロング” 。
アルパインハーネスなど確保装備があると、崖を突破できる可能性が高くなる。結果ビバークも回避。クライミングに使用するものでも構いませんが、超軽量ハーネス “アルティチュード” など携帯が楽ですね。
確保技術は “GoGoバリエーション” で習います。
救助要請 (/ω\)
119または110
救助要請は、119または110通報。
携帯電話バッテリーは全員の命綱なので、むやみやたら勝手に使わない。リーダーの指示に従い全員バッテリー温存に努めます。
座標は、iPhoneならコンパスappで表示。
ジオグラフィカは、座標長押しでクリップボードにコピーもできます。右列2番目の矢印が、緑色の確認を忘れずに。
救助要請の場所を離れる場合、座標をスクリーンショットしてから離れるとよい。
メーリングリスト
『足を負傷して動けません。座標を送るので110番してください。』
『無事です。この座標でビバークするので安心してください。電波が不安定ですが、また明朝から定期的に連絡を試みます。』
ココヘリ
座標取得不能な場合、もしくは、完全電波圏外ならココヘリが頼り。
下山予定時刻から3~5時間以内に下山届が無い場合は、ココヘリ捜索依頼するよう登山届先へお願いしておく。
そのためにも下山連絡は習慣化しなければならない。
2018年、登山遭難者が過去最多記録を塗り替え3111人となったようです。内、死者・行方不明者は354人となりこちらも過去最多。
ただし、警察に届け出があったものだけで、隠れ遭難を含めるとこの数字は氷山の一角とも言われます。
昨今、ネットで知り合った名前も知らないハンドルネームでつながっているパーティーが急激に遭難件数を増やしています。なかには経験豊富なリーダーもいるでしょう。しかし、その技量をどうやって知るのでしょうか?いつの間にかキルゾーンへ足を踏み入れているかもしれないわけです。
各自のバックアップは絶対です。