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Kagoshima Mountaineering Circle

くじゅう連山へ遠征登山 -Day2-

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約 13 分

北アルプスを目指して vol.04

2019年10月23日

アイフォンの軽快な音が久住高原荘の6畳間に響き渡ります。時刻は午前5時。まだ外は暗く、身体は起き上がるのを断固拒否しています。

気合いだ気合いだ気合いだー!!
ナビゲーターは、早起きが滅法苦手なオリーブです。くじゅう連山1日目を終え、2日目の朝を迎えました。今日は、いよいよトレーニング縦走本番です。

4本足の掟

どうにか身体を起こし、顔を洗います。どんなに辛くても起きてしまえば何とかなるものです。予定より時間が押していたこともあり、そこからは素早く準備を整え、まだ静まり返っている宿を後にします。昨日と同じ道を走り、15分ほどで牧ノ戸登山口へ到着しました。平日だというのにすでに20台くらいの車が並んでいます。トイレをすませ、いざ登山開始です。時刻は6時50分。あいにくの曇り空ですが、初めてのくじゅうに心は弾みます。

登り始めはコンクリートの階段が続きます。けっこうな勾配が延々と続くのですぐに息が苦しくなってきます。が、今回は4年前に屋久島登山のために買ったブラックダイヤモンドのストックを持ってきたので、足への負担がだいぶ軽く感じられます。ストックを使うと、まるで自分が4本足の動物になったような気がします。階段が終わると岩がゴロゴロ転がっているザレ場ですが、高千穂の峰よりも歩きやすい気がします。今日は4本足で歩いているせいかもしれません。

大きな岩が出てきます。はしごを使う場所ではストックをザックに固定します。昔、まだストックを持っていなかった頃、登山口にあった木の杖を持ち、しまうのが面倒でそのまま無理に大きな岩を登った時に肩を痛めたことがあるので細心の注意を払います。山では、普段よりも丁寧に行動しないと、ちょっとしたことがすぐに怪我に結びついてしまうのです。ストックを持つ場合は、こまめに長さを調節することと、不要な場所ではその都度ザックに固定することが大事です。その掟さえ守ることができれば、ストックを使った4本足歩行は莫大な利益をもたらしてくれます。

太陽がいっぱい

久住山と扇ヶ鼻の分岐に到着しました。前を歩いていた人たちはそのまま久住山の方向へ歩いていきます。私たちはというと、久住山でもなく、扇ヶ鼻でもない脇道へと進みます。今日、最初の目標は星生山。星の生まれる山、いい名前です。ダブルストックでぐんぐん進みます。空にはずっと分厚い雲が居座っていますが、変化のある道なので楽しく歩くことができます。下り道を下っていると、下の方にいくつもの湖が見えてきました。山で見る湖は人の心を躍らせます。リーダーが一目散にカメラを持って湖に駆けていきます。湖の傍にはもう一人カメラを携えた男性がのんびりとくつろいでいました。撮影を終え、男性に軽く会釈して先へ進みます。湖のすぐ後には急な登りが待っていました。ところどころで、視界が開け、さっき見た湖を下に見下ろすことができます。いくらか高度が上がり、大きく眺望が開けたその瞬間、眼下の湖が一斉にキラキラと輝きだしました。まるで奇跡を見ているようです。ずっと隠れていた太陽が雲間から顔をのぞかせたのです。赤く染まった木々も太陽の光を浴びて鮮やかさを増します。言葉にならない圧倒的な美しさです。太陽は女神のようなものだと実感しました。

美しい景色を存分に写真におさめたところで先を急ぎます。なんてったって今日はこれから2山を制覇しなければならいのです。大きな岩場が続きますが、リーダーの動きを見ながら足場をまねて登ります。順調に進んでいましたが、ん?んん?どうやっても足場のない岩にぶちあたってしまいました。足が短いせいか、股関節が固いせいか、リーダーが教えるとおりに登ろうとしますが、ことごとく失敗します。やばい…ここでギブアップか…暗い空気が漂い始めた時、後ろからさっとストックを差し出す男性が現れました。さきほど下の湖のそばでカメラを構えていた男性です。『これに乗ってあがってください』と男性は言います。ストックはシングルのもので、柄がL字型になっています。その柄を階段のようにつかって上にあがれと言ってくれているのです。言われるままに、ストックの柄に乗り、無事難所を乗り越えました。私が登ったのを見届けると、男性はまたカメラを手に湖の方向へ降りて行きました。湖と紅葉の景色を撮るために太陽を待っていたようです。天の助け!私には男性が太陽のように輝いて見えました。

光の中を歩くと、それまでとは違う景色が見えてきます。紅葉の赤や黄色、木や土の茶色や黒といった秋色の山の中で、ひときわフレッシュなグリーンが目に飛び込んできました。岩肌を覆う瑞々しい緑の苔が、柔らかいビロードのように光を反射して輝いています。その生命力にあふれた姿に勇気をもらい、ごつごつした道を歩き続けます。太陽が出ているうちに山頂に辿り着きたい一心で歩きますが、分厚いカーテンのような雲が再び太陽を覆いかくしてしまいました。

テクニカル・ルートを行く

ついに星生山山頂に到着しました。9:01、記念すべき鹿児島県外初の登頂です。あいにくの曇り空と白いガスでほとんど眺望はありませんが、無事辿りついたことに万歳をします。ここで朝ごはんをとります。星生山でアップルパイの朝食…。何だかロマンチックです。ティファニーでクロワッサンをかじっていたオードリー・ヘプバーンにも負けない気分です。

星生山の山頂から続くギザギザの尾根を越えての縦走が次のミッションです。あんな岩、野生のヤギにしか歩けないんじゃないかと不安になっているところへ、実はこの星生山はくじゅう連山の中でもテクニカルな山だということを知らされました。なんということでしょう!そんなところへこの私が来ているなんて、場違いもいいところじゃないですか!好奇心はあるけど、とにかく自信のない私。白旗をあげて降参したい気持ちもあれば、ここまで来たら歩いてやろうじゃないのという気持ちもあります。進んだら、途中では引き返せないような道でしたが、大丈夫というリーダーの言葉を信じ行くことにします。ストックはひとまずザックに固定し、ギザギザの岩場を行きます。崖のようなところもあるので、集中して歩きます。スピードは亀並みでしたが、岩場を歩き切り、普通に歩ける尾根に辿り着きました。振り返ると、のこぎりのような岩場があります。あんな道を歩いたなんてちょっと嘘みたいです。またひとつ成長したような気がします。

もののけ

見晴らしの良い尾根を後に岩場を下っていると、どこからかたくさんの人の笑い声や話し声が聞こえてきます。前にも後ろにも人がいる気配はしません。世にも奇妙な現象です。いったいどこから聞こえてくるのだろうと思っていると、下りきったところに久住分かれがありました。久住分かれは広く、避難小屋やトイレなども整備されています。ここで一休みした人たちの声が響いていたのです。心霊現象ではなかったことにほっとして、久住山方向へ進みます。

久住分かれから久住山までの道はゴロっとした岩が転がるガレ場です。歩きやすくはありませんが、一面に細かい石が散らばる高千穂峰ほど滑りやすい道ではないので、安心して歩くことができます。ストックの正しい使い方や効率的な山歩きの方法をマスターするのにちょうどよい道です。本で読んだとおりにやや長めのストックを安定した場所に置きながら進みます。登り道なので息は上がってきますが、道は広く、見晴らしもよく、何より久住山山頂を目前に、楽しんで登ることができます。私たちを追い越していったソロ登山の男性が、山頂を素通りしてそのまま進んでいくのが見えます。いくらソロでも山頂を素通りするなんて変わった人だなぁと思いながら歩いていると、実はそこはまだ山頂ではありませんでした。そうですよね、久住山がこんな簡単なわけないですよね。ひとり頷きながらさらに登ります。岩が大きくなり、徐々に歩きにくくなりますが、足を置きやすい岩を見つけながら歩きます。この時、岩の上を歩くのが結構好きな自分に初めて気づきました。ちょうどいい具合に岩の上を進むことができると、下駄で岩場を駆け巡るもののけ姫のジコ坊になったような気がしてきます。ジコ坊の身体能力があったら、きっと槍ヶ岳でもエベレストでも下駄ばきで軽々と登頂できることでしょう。せめて山犬がいたら、その背に乗って山頂までひとっ飛びなんだけど…息を切らし、そんな妄想を巡らせながら一歩一歩進んでいきます。

ワンダフル・久住山

久住山山頂は真っ白でした。ガスワンダーです。視界がないので1786.5mの高さがよくわかりません。それでもしっかりと久住山の標識を撮影し、頂上の空気を胸いっぱいに吸い込みます。頑張った者に等しく与えられるすばらしい山の空気です。とはいえ、空気だけではお腹いっぱいにならないのが人間です。さぁ、お待ちかねのランチの時間です。人気の久住山だけあって、決して少ないとは言えない数の登山者たちが思い思いの場所でランチをとっています。山頂の標識を少し超えたところに座るのにちょうどよい岩をみつけ、ザックを下ろします。今日のメニューは、カップヌードルシーフードとメロンパンとチーズ日奈久竹輪です。時短のため、ホテルで沸かしたお湯を魔法瓶で持ってきました。山で食べるラーメンはサイコーですが、最後に大量のスープを飲むのが少々苦手な私。山ではスープを捨てることができないので、最初からお湯を少なく入れます。濃い味が疲れた体にちょうど良くしみわたります。チーズ日奈久竹輪は、今まで食べた竹輪の中で断トツトップの美味しさでした。宮原SAの緑色のメロンパンもサクッとフワッと普通のメロンパンとは一線を画す美味しさです。旅先の名物を山頂で食す。これぞ遠征登山の醍醐味です。

ランチを食べ終え、登頂記念にまたもやベンローマックの登場です。舐める程度に至福のシングルモルトを味わい、ふと目をあげると、眼下に赤く染まった山々が広がっています。酔って幻を見たわけではありません。ガスが晴れ、素晴らしい眺望が開けたのです。歓声が湧きおこります。実にワンダフルな眺めです。その景色にしばし見とれ、あ!写真をとらないと!と思った瞬間、あっという間にあたりはまた真っ白なガスに覆われました。一瞬の出来事。まるで魔法にかかったようでした。偉大なショーを観た観客のように、その余韻を十分に味わい、下山の支度を始めます。13:35まだまだ長い行程が待ちうけています。

感謝のキモチ

またまたジコ坊になって久住の岩を下ります。こういう岩っぽい道の下り方が早くなったとリーダーに褒められ、ますますスピードアップします。褒められると伸びるタイプなのです。久住山山頂を目指すたくさんの老若男女とすれ違いました。もうすぐ山頂は登山客のピークを迎える時間です。難なく久住分かれまで下り、少し休憩することにします。いいタイミングでトイレがあるので、入ることにします。外から見る限りでは、コンクリート造りのそう悪くないトイレですが、一歩個室の中に足を踏み入れると、そこはまるで地獄のような光景です。水の流れが悪く、洋式便器の7分目くらいまで、使用済みのティッシュで埋められています。もうひとつの個室を覗いてみると、さらに状況は良くないようです。下山するまで我慢しようかと思いましたが、いちど行くモードになってしまったからには何とかして目的を達成したい!こんな山の上で贅沢は言ってられません。備え付けのトイレットペーパーもあるし、全く流れないわけではありません。意を決し、ありがたく使わせていただくことにします。今までの人生の中でも最速のスピードで用を済ませ、転がるように外に出ます。手洗い場はないのでウェットティッシュで手を拭き、息を整えます。無意識のうちに呼吸を止めていたようです。

さっぱりしたところでまた歩き出します。歩きながら地獄のトイレだと思ったことに罪悪感を覚えます。トイレや避難小屋を整備してくれている方々に感謝しないといけないなと自分を戒めます。美しくも不自由な『山』の中にいると、人の親切や文明の恩恵をひしひしと感じることができるのです。

ザ・紅葉

久住分かれからは、ゆるやかな稜線が続きます。久住の山々に囲まれた草原の中の一本道を歩くのはとてつもなく爽快です。朝登った星生山を右手に見ながら、意気揚々と進みます。このまますぐにでも牧ノ戸登山口に辿り着く気がしていたのですが、そう簡単にはいきません。すっかり忘れていましたが、まだ沓掛山が残っています。またまた登り道に入ります。後半の上りは結構きついものがあります。ほとんど垂直のはしごを上るときに足が震え、ちょっとしたスリルを感じたりもします。上りの後には必ず下りがやってきます。最後の下り道、ここで私の膝に本当の試練が訪れるのです。ストックの力を借りてさえも、延々と続く衝撃に、次第に両膝の震えが増していきます。下駄で岩を駆け巡るジコ坊の気分は跡形もなく消えてしまいました。膝を励まし歩いていると、山一面に紅葉が見渡せる展望に出会いました。山のてっぺんから裾野まで流れるように赤い木々が連なっています。山頂からの風に吹かれ、その木々の上を白い霧が流れていきます。時折、白い霧が途切れると、その刹那、山はくっきりと鮮やかな紅になります。紅葉の正しい見本のような壮麗な眺めです。鹿児島では、ここまでの紅葉にはなかなか出会えないので、膝の痛みも忘れ、テンションが一気に上がります。

紅葉の展望を過ぎ、まもなくするとコンクリートの道に入ります。固いコンクリートの上を歩くと、膝に衝撃が響きます。でも私は負けません。ストックの助けを借りて最後まで頑張ります。途中、みごとに色づいた銀杏の木から、扇形の黄色い葉っぱが舞い落ちました。登る時には苦しくて気づかなかったのですが、灰色のコンクリートの上に黄色い銀杏の絨毯が敷きつめられています。自然の色彩は、なぜこんなにも心に迫ってくるのでしょう。大きな銀杏の下で深呼吸をし、ゆっくりと最後の道を下ります。13:35、牧ノ戸登山口到着。無事に全行程を歩き切りました。全身が爽やかな達成感に包まれるのを感じました。

ちょうど昨日の今頃、この牧ノ戸登山口のすぐ横の道路を車で走りながら、眩しく登山者を眺めたことが思い出されます。本当に登れるのかしらと不安だった昨日の私とミッションを達成した今の私。技術はさほど変わっていないかもしれませんが、精神的に格段にレベルアップしていることは明らかです。自分で自分を褒めてあげたい!ということで、ご褒美に牧ノ戸レストハウスのソフトクリーム300円をいただきます。こちらのソフトクリームは、ごつっと大きいワッフルコーンに入っているところがまず素敵!そして、濃厚なミルクの風味は牧場のソフトクリームを思わせます。ご褒美をぺろりと平らげ、すぐに車に乗り込みます。これから鹿児島までのロングドライブの前に、一日の汗を流すことにします。

牧ノ戸温泉からの眺め

温泉を求めて向かったのは、宿泊を迷った九重観光ホテルです。実は、牧ノ戸温泉で唯一源泉かけ流しの宿らしいのです。立ち寄り湯は500円。タオルはついていませんが、鹿児島の霧島温泉郷のほとんどのホテルの立ち寄り湯は1000円なので格安に感じます。まだ午後2時前ということもあり、ホテルのロビーは静まり返っています。フロントで受付を済ませ、少し離れた温泉に向かいます。脱衣所は広く清潔でした。そして、誰もいませんでした。またしても貸し切りです。浴室の扉を開けると、内湯の先にある露天風呂が目に飛び込んできました。黄色く色づいた木々に囲まれた岩造りの露天風呂には、なんとも言えない風情が漂っています。手短に汗を流し、少しだけ内湯に浸かるとすぐに露天風呂へ移動します。風に揺れる葉っぱの音に耳を傾け、遠くの景色に目をやると、くっきりとくじゅうの山々を見渡すことができます。登ったばかりの山々をみながら入る温泉は実に気持ちのいいものでした。

トレーニングは続く

温泉をでて、ワンピースに着かえると張りつめていた気持ちがゆるっとほどけました。超ビギナーの私にとって、偉業を成し遂げたと言っても過言ではない今回のくじゅう遠征登山。帰りは一切運転しませんでしたが、4時間のドライブのあと、鹿児島の地に降り立った時には、足が固まり歩くのがやっとという状態でした。帰宅したのは午後7時。やはりくじゅうは遠かった…。もう少し近ければ、間違いなく毎月通いつめたことでしょう。今まで霧島連山がナンバー1だと思っていましたが、一瞬でくじゅう連山に心変わりしてしまいました。世界は広く、魅力的な山はまだまだたくさんあるのです。果たして次は、どんな山に出会えるのでしょう。トレーニング登山を始めてから楽しみはどんどん増えていきます。あこがれの北アルプスに辿り着くまでトレーニングは続きます。

2019年10月23日 Wednesday
writer オリーブ

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member Olive

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北アルプスをめざす小説家志望のA型女子。