Yama Go!Go!

Kagoshima Mountaineering Circle

藺牟田池外輪山で秋を満喫

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約9分

北アルプスを目指して vol.01

憧れのバッグといえばエルメス、憧れの万年筆といえばモンブラン、憧れのフルーツといえばマスクメロン。そして、憧れの山と言えば槍ヶ岳!来年の夏の北アルプスをめざして、3年ぶりに登山トレーニングを始めることにしました。

ナビゲーターは “オリーブ” です。
以前少し登山をしていたとはいえ、鹿児島の山にしか登ったことのない私。ビギナー中のビギナーです。今まで登った山の中で、いちばんイケてる山は裏霧島の矢岳でしょうか。そんな私が北アルプスへ行くためのトレーニング登山第1山として選んだ山は藺牟田池外輪山。鹿児島市から車で約1時間、薩摩川内市の観光名所である藺牟田池を取り囲む山々を縦走するコースです。藺牟田池は火口湖であり、藺牟田池外輪山は、愛宕山~舟見岳~竜石~山王岳~片城山~飯盛山の6つの山からなります。今回は最後の飯盛山を除く5つの山を制覇するのが目標です。

山の洗礼

2019年10月06日

増税前に買ったばかりのアウディA1で藺牟田池駐車場に到着したのは午前9時45分。駐車場では、色とりどりの登山ウェアに身を包んだ7~8名くらいのグループが入念なストレッチをしていました。赤いゲイター(泥除け)をつけた背の高い男性が、足のあげ方や歩き方をレクチャーしていたので、登山教室のようなものかもしれません。

靴紐を締めたり、途中のコンビニで買ったおにぎりや飲み物をザックにつめたり、日焼け止めクリームを塗ったりして、駐車場の目の前にある愛宕山登山口に向かいます。時刻は10時。ちょうど前述の登山グループと同じタイミングで登山口についたので、やり過ごすためにストレッチをしたり藺牟田池を眺めたりしていると、コスモスが綺麗に咲いているのを発見!今年は何かと忙しくて季節にかまっていなかったのですが、大好きな秋が訪れているのを実感し、意気揚々と登山スタート!と思ったのですが、階段を3段ほど登ったところでトイレに行ってないことを思い出し、慌てて引き返し、大事な用をすませます。

今度こそ、いざ出発!登山口からしばらくの間は、階段状になっていて歩くのは簡単ですが、最初からけっこう急な登りが続きます。普段、3階以上はエレベーターを使うという不摂生な生活を送っている私にとっては、かなりきつい試練です。3年前と比べると体重は確実に増え、筋力は確実に落ちています。いやはや、我ながら先が思いやられます。きつくても最初の20分は立ち止まらないで身体を慣らすというリーダーの教えを胸に、ひたすらがんばって歩きます。途中、苦しいのは酸素が足りないからだと思いつき、無意識にゼーゼーしていた呼吸を改め、しっかり吸ってしっかり吐くようにすると心なしか楽になったような気がします。先に山に入った登山グループを数人追い越し、リーダーの励ましに支えられ、10時30分、愛宕山山頂へ到着。約20分、頑張りぬきました。少し休憩をとり、お気に入りの行動食『ピュレグミ』を食べます。山行中はなぜか甘酸っぱいものが食べたくなります。

しばらく木立のなかを歩くと、また目の前に坂道が現れます。きた!登り!!気を引き締めて一歩踏み出します。平静に戻っていた心拍がまたバクバクと脈打ちます。ひたすら登っているとリーダーがなにやら一生懸命写真を撮っています。茶色く光るトカゲです。しっぽが長く、ぱっと見ると木の枝にしかみえません。隠れているつもりなのか、ポーズをキメているのか、写真にとられていても微動だにしません。

さらに登ります。段差が大きいところは足を大きく上げて地面を踏みしめ、その膝に手をのせて体重をグイっと上に押しやるようにしないときつくて登れません。筋力のある人なら階段のようにポンポン登れるのでしょう。ああ、私の筋肉、今まで鍛えてあげられなくてごめんなさい。筋肉に謝りながら、必死で歩きます。そのうち膝がガクガクしはじめました。これから始まる厳しいトレーニングに恐れおののいているようです。

二つめの舟見岳を登頂し、塩飴や水を補給して、また下ります。舟見岳からの下り道は、歩幅が狭く段差の大きい階段が組まれています。細長い丸太状のプラスチック材で階段の枠が形作られ、足が着地する部分は土で埋められているはずなのですが、土が流れてしまっているため、棒状の枠だけが残り、まるで陸上競技のハードルのようになっています。

無事に下山したと思った矢先に悲劇は起きました。油断しておしゃべりしていると、足元がよろけ、派手に転倒したのです。今日のザックの重量はたった4キロでしたが、荷物の重さに引っ張られて、右腕をしたたか地面に打ち付けました。慌てて立ち上がろうとしましたが、坂道の下り方向に上半身があるのと、ザックの重みとで全く立ち上がれません。リーダーにザックを引っ張ってもらいようやく立ち上がることができました。これが槍ヶ岳なら完全にアウトです。しょっぱなから厳しい山の洗礼を受け、すっかり意気消沈したまま、竜石へと向かいましたが、無傷で歩いているからまぁいいかと気持ちを切り替えます。人生、切り替えが大事です。

竜の伝説と縦笛とランチ

竜の伝説の残る竜石は今日の見どころのひとつです。竜石への道を登っていると、どこからか笛の音が聞こえてきます。ちょっと悲し気なメロディ、よく聞くと『コンドルは飛んでいく』です。遠い昔、中学生の頃の音楽室の情景が浮かんできます。昔のことを思うと少ししんみりしてくるのは歳をとった証拠でしょうか。まもなく竜石!もう少しの辛抱!という時に、今度は『天空の城ラピュタ』の主題歌『君をのせて』が聞こえてきます。何か励まされるような清々しい気持ちで竜石に到着しました。
時刻は11時30分。
竜石を臨む見晴らしの良い岩の方を見ると、黄色いザックを傍らに置いた40代くらいの男性が、白と黒の小さくて可愛い縦笛を気持ちよさげに吹いていました。山に笛の音がしっくりくることを初めて知りました。この笛は『ソプラニーニョ』というのだそうです。新しい山の楽しみ方を知りました。

ソプラニーニョの男性が、いちばん景色の良い場所を譲ってくれたので、ここでランチをとることにします。眼下には、ラムサール条約に登録されている美しい湿原が広がり、それを取り囲んでいるこれから登る山々と、今まで登ってきた山々を見渡すことができます。そして目の前には、伝説の竜石。

“藺牟田池にいた男竜と女竜。ある日、ふと外の世界に行きたくなった男竜はふらっと藺牟田池を出ていってしまいます。幾百年待っても男竜が返ってこないので、探しに行こうとした女竜は、途中で村人にその姿を見られてしまい、石になってしまいます。男竜は大浪池で別の女竜たちと楽しく遊んでいましたが、幾千年後にふと女竜が心配になり藺牟田池に戻ります。そこで石になった女竜を発見し自分も寄り添うように石になりましたとさ…”というような伝説です。私が女竜だったら、そんな男竜はこっちから願い下げです。何はともあれ、竜石のわきにあるお堂をカップルでお参りすると恋が成就するそうです。

さて、待ちに待ったランチの時間です。今日のメニューは、五目いなりとエビマヨおにぎりと玉子焼きです。3年前までの山行では、パスタを作ったり、焼きそばを作ったり、コーヒーを沸かしたりとかなりゴージャスに山ごはんを楽しんでいましたが、今はトレーニングなのでスペシャルランチはお預けです。最近のコンビニ弁当は随分美味しくなっていますが、山でいただくと、さらに何倍も美味しく感じます。甘辛い五目いなりが疲れた体を癒します。真空パックの玉子焼は、まるで高級料亭の味でした。山の空気は、ごはんを美味しくする魔法のスパイスです。景色と食事を十分に楽しみ、トレーニング後半戦へ出発です。

笑う膝

下りは膝に負担がかかります。普段の運動不足と下手な歩き、さらにハードルと化した階段を越えるために余分に足を上げ下げしたせいで、ガクガクしていた膝から次第にワラワラと力が抜けていきます。『膝が笑う』とはこのことか…初めての経験です。

そうこうしているうちに、木々が切れ、細いアスファルトの道が見えてきました。車も走れる道です。道の向こう側に山王岳へと続く登山口があります。せっかく下りたのにまた登るのか…という心の声に蓋をして笑う膝に力を込めます。今までの山より岩っぽくごつごつした山です。途中、藺牟田池を見渡せる見晴らしの良い場所があるので、リフレッシュしながら昇ることができます。落ち葉の中に、リボンのようにカールした葉っぱのついたどんぐりの枝が落ちていました。まん中にどんぐりがいくつもついていて、まるでどんぐりの花束みたいです。小さな発見が山歩きを輝かせます。休憩ついでに、リーダーがザックから半分凍ったペットボトル入りの水を取り出し、飲ませてくれました。山で飲む氷点下の水は、爆発的な美味しさです。

山王岳山頂で万歳をしてまた下ります。山王岳にはロープが張ってある岩場もあります。ここは今日の難所というリーダーの声をきき、慎重に歩きます。無事にクリアして少し自信がつきました。

ついにラストの片城山へ突入です。難所を終えたことで気持ちが楽になり、リラックスした気分で歩を進めます。が、大きな岩場が現れ、ん?どうも様子がおかしいぞと思ったところで、ここが今日いちばんの難所であることが判明しました。さきほどの難所よりもさらに上の難所があったのです。しかし今日2度目のロープ場だったので、さきほどよりはスムーズです。後ろからきた山慣れした60代くらいの夫婦に道を譲り、自分のペースで登ります。片城山山頂を越え、下ります。この最後の下りが、最も手強い相手でした。立派な鎖が張ってあるので、安全には下りられますが、後ろ向きで下りる時に足の置場に迷うところがあります。ボルダリングジムでまじめにトレーニングをやっていたら、こういう岩場はきっと楽しいのでしょう。岩場をクリアし、あとは遊歩道を歩くだけです。涼しい秋風が吹いています。木漏れ日が茶色い落ち葉に覆われた山道をオレンジ色に照らし、かすかに夕暮れの気配を感じます。目標の5山を達成した解放感に包まれて歩いていると、苔むした石に足を滑らせ、しりもちをついてしまいました。油断大敵。いつもなら転ばずに持ちこたえられたのでしょうが、笑い上戸の膝に力が入らず、本日2度目の転倒で第1回目のトレーニングは幕を下ろしました。

幸せな光景

片城山を下り、藺牟田池沿いの遊歩道をゆっくりと歩きます。レンタサイクルで池の周りを散策する家族連れやボートを漕ぐ恋人たち。優雅な白鳥や、時折水の中に首をつっこみ、何やらエサを食べている愛らしい鴨の群れ。そして、無事に登山を終え、栗饅頭とスプライトでくつろぐ私たち。幸せとしかいいようのない光景がそこにあります。

今日の反省点は、プロテインを忘れたこと。下山後のパンパンになった足を見て、いまこそプロテインを飲んで筋肉増強するべきだったと深く後悔しました。
藺牟田池外輪山は、トレーニングに向いているとは聞いていましたが、その噂は本当でした。ロープや鎖がでてくると、トレーニング感が高まります。今回はランチで1時間くらいのんびりして、4時間44分。北アルプスをめざすなら、一日で3周くらいできる体力が必要かもしれません。
トレーニング第2山は鹿児島が誇る日本二百名山、高千穂峰で岩稜トレーニングです。

2019年10月06日 Sunday
writer オリーブ

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member Olive

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北アルプスをめざす小説家志望のA型女子。